大阪高等裁判所 昭和61年(行コ)35号 判決
兵庫県川西市久代二の七九の一
控訴人
金菊仙
右訴訟代理人弁護士
宮崎定邦
同
前田修
同
木村治子
同
高橋敬
同
吉井正明
同
古殿宣敬
大阪市東区大手前之町一番地
大阪合同庁舎三号館
被控訴人
大阪国税局収税官吏
小山和男
右指定代理人
岡本誠二
同
田中泰彦
同
保科隆一
同
上田吉彦
同
徳島汎
同
鎌田豊
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一申立
一 控訴人
1 原判決を取消す。
2 被控訴人が、昭和五九年五月二三日兵庫県川西市久代二の七九の一所在サンエイセンターにおいて控訴人を被差押者としてなした原判決添付物件目録記載の物件に対する各差押処分をいずれも取消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二主張及び証拠関係
次のように訂正、付加するほか原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決一四枚目裏三行目の「大金庫」を「他のもう一つの大金庫」に、同一九枚目裏一行目の「本件」を「原審訴訟」に各訂正する。
二 控訴人の主張
1 行政事件訴訟法一一条一項は、行政処分取消訴訟の被告適格につき原処分主義を採用し、原則として原処分庁を被告とすべき旨を定めた。その例外は、同条一項但書、二項に定める場合に限られるものであるところ、本件は、そのいずれにも該当しないから、原処分庁である被控訴人を相手方とする本訴は、適法である。
2 本件差押処分に対する救済方法である取消訴訟を提起した控訴人が、手続上無関係である大阪国税局収税官吏のなした告発手続によって、準抗告による以外救済の途を失わしめられるのは、不合理かつ不当である。
理由
当裁判所の認定判断は、次のように付加するほか原判決の理由説示のとおりであるからこれを引用する。
「控訴人の当審における主張について
国税犯則取締法一八条三項は、犯則事件の告発に伴う「差押物件又は領置物件の引継があったときは、当該物件は、検察官が刑事訴訟法の規定により押収した物とする」旨規定し、もって当該物件に対する差押、領置の権限が収税官吏から検察官に移管される旨を明らかにしたものというべきところ、右移管について行政事件訴訟法一一条一項但書、二項の適用がないことは、所論のとおりである。しかしながら、右移管によって収税官吏は当該物件に対する管理処分権限を喪失したのであるから、これを相手方とする差押処分取消訴訟は当然不適法として却下を免れない(控訴人は、原処分主義によるべき旨主張するが、原処分主義とは、原処分と裁決との関係において、原処分の違法はその取消訴訟においてのみ主張すべきものとすることをいうのであって、権限の移管による所管行政庁を異にする場合は、関係がない)。しかるところ、刑事訴訟法四三〇条三項は、検察官、検察事務官又は司法警察職員のした押収もしくは押収物の還付に関する不服申立は、準抗告によるべきであって、行政事件訴訟に関する法令の規定は適用しない旨を定めているので、本件差押処分については行政事件訴訟法の適用がなく、同法の適用のあることを前提とする本件訴訟は、不適法とならざるを得ないのである。
そしてこのように、押収処分に対する救済方法を準抗告によるとするか、行政訴訟によるとするかの選択は、一にかかって立法政策の問題であって、刑事訴訟手続上の事項につきもっぱら同手続上の救済方法によるものとすることは、裁判所の判断が区々となること及び相互の抵触を防止し、統一性を維持する上において必要的かつ合理的であって、既に行政訴訟が提起されている場合であっても右の合理性を失うものではない。
控訴人の当審における主張はすべて採用できない。」
よって、原判決は正当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤野岩雄 裁判官 仲江利政 裁判官 佐々木茂美)